伊藤言の研究・教育活動について
2016/05/23 by Gen

経験サンプリング・Ecological Momentary Assessment的手法を使うなら、PACOというアプリがベストチョイス

[最終更新日 2016/05/23]

 

■記事の要約

 無料で経験サンプリングを簡単に・手軽に行いたい場合、現時点での最適解はPACOというアプリを利用すること(だと思います)。PACOはGoogle社の社員が社会科学研究の振興を目的として立ち上げたアプリ(システム)であり、Android, (現在は)iPhone両対応。研究者はこのアプリに質問項目のデータを送り込んで経験サンプリングの調査としてパッケージ化できます。写真情報(iPhoneでも取得可)、GPS情報やアプリ使用履歴情報(これらはAndroidのみ可能?)も手軽に取得可能。ただし、iOS端末のアプリの方が制限がキツい(これはアップル社のセキュリティの厳しさを反映してのもの)。

 

■はじめに

 数日間にわたって、1日に複数回参加者に「なにしてる?なに考えてる?」と尋ね、参加者の日常経験をランダムにサンプリングすることによって、参加者の日常経験全体の性質を推測する方法である経験サンプリング(Experience Sampling; 別名Ecological Momentary Assessment)。この手法を用いた研究が心理学界隈で増加している印象があります。私自身も同手法を用いた3回目の研究を行うに際して、同手法を用いる際に役立ちそうな情報をまとめておきます。

 

 まず非常にまとまって丁寧に書かれたものとして、以下のHPと文章を挙げることができるでしょう。

スマートフォンを使用した経験サンプリング法:手法紹介と実践報告(尾崎由佳・小林麻衣・後藤崇志)

尾崎先生のHPにおける経験サンプリング法のtipsの紹介

 

■経験サンプリング法を行うときの大変さ

 私の経験としては、尾崎先生のHPに書かれているGoogleグループとメーラーの送信日時指定機能を利用した経験サンプリング調査を一度行っています。うまくいきましたが(心より感謝いたします)、なかなかに大変でした。まず参加者を4グループに分けたとして、送信日時を4×送信シグナル分(1日5回×7日間であれば35回)、メーラーかサーバーにセッティングする。今現在であれば、尾崎先生のページに書かれているパソコンにインストールするメーラーであるthunderbirdに送信予約を行うよりも、Gmailのサーバー側の送信日時指定機能アドインを利用した方が良いでしょう。これならば、一度Gmailのサーバーにセッティングしてしまえば、パソコンの電源を切っても良いし、ネット接続環境すらなくても大丈夫です。自分のパソコンやネット接続が落ちると研究計画が狂う、というのはとても怖いものです。

 

◆何が大変だったかというと、

・140回分(グループ×シグナル分)送信予約を行う大変さ

・Googleフォーム等の入力フォームを送信予約分複数用意し、シグナルごとに回答フォームの回答期限を時刻設定し、取得したデータを個別に多数ダウンロードし、それらを統合する大変さ

・送信エラーが生じた際の大変さ

・Emailでシグナルを送信すると、参加者がなかなか反応してくれない(PCのEmailアドレス(@gmail.com等)はスマートフォンに派手な通知をもたらさないから参加者がシグナルに気づきにくい。他方、携帯アドレスのEmail(@docomo.ne.jp, @ezweb.ne.jp等)は、いくら設定を周知したとしてもメールの着信拒否のエラーが頻発する)

・グループ分けした上でのランダム送信は、疑似ランダム化にすぎない

・参加者の生活サイクル(早起きする人もいれば遅起きする人もいる)ごとにタイムウィンドウを設定できない

といった点です。もちろん、尾崎先生のページで紹介されているSurveysignal等のSMS送信システムを利用すればこのような問題の大部分は回避できるかもしれません。しかし、私が試したところ、Surveysignalは日本では動作が安定せず、また送信料として 1 通あたり$0.10 が課金される(もし 100 名の対象者に一日 7 回×7 日間のメッセージ送信を行った場合、$0.10×100×7×7=$490 かかる)のはなかなかに高額です。

 

■とにかく試してみた→PACOがイチオシ

 そこで、スマートフォンを利用した経験サンプリングに役立つサービスを網羅的にまとめた海外の一覧表

Conner, T. S. (2014, Nov). Experience sampling and ecological momentary assessment with mobile phones. Retrieved from http://www.otago.ac.nz/psychology/otago047475.pdf

で紹介されているサービスを片っ端から試して、実際に経験サンプリングのデザインを組んでみました。その結果、PACOというアプリが優秀であるという結論に至りました。PACOというアプリを参加者がインストールすれば、そこに研究者が研究セットを送り込むことが可能(データの収集も可能)になっています。

 

■PACOの利点

 PACOの素晴らしいところは、

・アプリを利用した経験サンプリングが極めて手軽に実施できること。プログラミングの知識はほぼ不要。しかし、アプリによる通知はとても目立つ(かつ通信ははじめの一度のみでOKな)し、原理的に送信エラー等の問題が発生しない。Email送信方式と比較して明確に利点がある

・Android, iOS両対応であり、スマホユーザーのほとんどすべてをカバーできること

・無料であること

・基本的にGoogleのシステムを利用したサービスなので、動作が安定していること(作者もGoogle社員の方)

・写真などのデータ収集が容易であること。Androidであれば、アプリ使用履歴やGPSデータも手軽に取得できること

・わずらわしいシグナル送信時刻のランダム化問題から解法されること。Pacoであれば、たとえば「朝10時~夜10時の12時間のタイムウィンドウを設定。その上で、1日にX回シグナルを発してね。でも、シグナル間は最低X分間隔を空けてね」といった設定がごくごく簡単にできます。シグナルごとの回答期限の設定やリマインダーのアラームを期限の何分前に出すかも自在に設定しかもSurveysignalとは違って無料です。正直にいえば、Surveysignalの出る幕はないような気がします。

・日本語にまったく文字化けしません。

・研究実施中に、参加者数、参加率=回答者ごとの回答率(回答/シグナル数)や、回答率の低い参加者を瞬時に特定可能。

 

■PACOの欠点

 他方、PACOの欠点としては、

・Google依存のシステムなので、参加者はかならずGoogleアカウント(@gmail.com等)を登録する必要があること(参加者がGoogleアカウントを入力しないと、研究セットが配信されません)

・細かな部分でインターフェースが英語表記なので、参加者に事前にわかりやすく使い方を周知する必要があること(この点は研究デザインによっては大きな支障となるかもしれません)

・質問項目のランダマイゼーションができないこと(あるいはGoogle Scriptのプログラミングスキルがあれば可能なのかもしれませんが、現段階ではよくわかりません)

【以下,PACOを利用した経験サンプリング研究を終えた後に追記】

・アプリがシグナルを発した場合,参加者は設定した制限時間内に回答を行うことができます(これは当然)。しかし,これに加えて,参加者は任意の(好きな)タイミングで自発的に回答を行うことができてしまいます。もちろん,あるひとつの回答がシグナルに対するものだったか参加者が自発的に回答してしまったものだったかはデータとして記録されるのですが,シグナルと無関係な自発的回答を行わないよう参加者に用意周到に告知する必要があります。これはPACOの比較的大きな欠点かもしれません。

・ときどき回答データが重複されて記録されることが(とくにAndroid利用者の回答データの場合に)ありました。回答日時が重複しているデータの処理など,データのトリミングが最後に必要となります。

 

※ちなみに、いろいろ試した結果、iOSに限定したアプリとしてはPIELも無料で優れています。

 

というわけでPACOがイチオシの経験サンプリング手法であり、新たに計画している経験サンプリングはPACOを利用して実施予定です

 

■PACOの使用感

 

◆PACOによって作成された画面はこんな感じです。

IMG_9163 3  4

 

◆参加者がPACOを利用するまでのハードルはこんな感じです。

1.アプリストア(Apps StoreもしくはGoogle Play)でアプリを探し出してインストールしてもらう

IMG_9170

2.PACOを起動するとGoogleアカウントのEmailアドレスを入力する画面があらわれる

IMG_9172

3.すると、このような画面があらわれる

IMG_9167

4.参加者のアカウントが、研究者側があらかじめ次の画面から招待(登録)を行っておいた@gmail.comアドレスである場合、

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5.参加者のPACOアプリの「Find My Experiments」というところに研究が届いている(2枚前の画像の左上)

6.参加者は参加したい研究名をクリックして、「Join this Experiments」をクリックすれば参加登録完了

IMG_9173 IMG_9174

7.あとは、研究者が指定した時刻になればアプリから通知がやってきます。参加している研究を参加者が確認したい場合は、「Running Experiments」(4枚前の画像の右上)をクリックすれば良い。参加を取りやめたい場合は、研究名をクリックした上で、「Stop Experiment」をクリックすれば参加を中止できる。

IMG_9175

 

■PACOの使い方

・経験サンプリングであれば、基本的にこちらのマニュアルの指示に従えばすぐに完成します。

・GROUPSタブを押して、上のマニュアル(2枚下の画像)にしたがってスケジュールを設定し、ADD INPUTで質問項目を加えるだけで基本的に完成します。

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■PACOに興味を持たれた方へ:いくつかのTips

 最後に、私がPACOで試行錯誤して得たTipsをいくつか紹介しておきましょう。

 

◆ダウンロードした.csvデータが文字化けしている

 csvをダウンロードしてExcelで直接開こうとすると文字化けします(これはGoogleフォームと同様ですね)。基本的にUTF-8でコーディングされているみたいなので、csvをメモ帳で一度開き保存し、そのファイルをExcelでインポートすると何の問題もなく読み込めます。.csvのインポート方法についてはこちら。

 

◆PACOの質問文を改行したい

 PACOはGoogleフォームのように大見出し・中見出し・小見出しといったものを設定できません。ベタっと平文になり、改行も不可能です。これでは質問文が読みにくくなってしまう。そこでどうするかというと、SOURCEタブをクリックして、改行を入れたい質問文のところに \n を打ち込んでやればOKです(2行分改行したければ\n\n)

1

2

 

◆いきなりすべての質問項目が出てくるが、ページ遷移は設定できないのか?

 PACOアプリにはページ遷移という概念がありません。したがって、作成した質問文は一覧として丸見えの状態(スクロールすればすべてが見える状態)になってしまいます。そこでどうすればいいかというと、条件文(conditional)において以下の通り設定を行ってやれば良さそうです。

たとえば、質問文2(input2という変数名が付きます)を、質問文1(input1という変数名が付きます)に回答した人だけに表示したければ、質問文2の表示条件を「input1>=1」(input1で1以上の数字を選択した人、すなわち質問文1の回答者全員)に指定してやればOKです。条件文を設定すればたいていの調査票のデザインは可能です。ただし、項目のランダマイゼーション方法は私はまだ見つけられていません。

 

◆PACOの操作方法・インストール方法を日本語で説明した資料が欲しい

 現在、研究への参加者に配布するための資料を作成中です。完成しましたら近日中に公開予定です。

 →PACOを用いた経験サンプリング研究の終了後に公開しました。これは,PACOの開発者の方が公開されている配布用マニュアルを日本語化したものです。

iPhoneを利用している人向けのマニュアル

Androidを利用している人向けのマニュアル

 

■PACOのサンプルが見たい

 PACOをインストールした後に、 m@genito.net まで「PACOサンプル希望」とメールの件名に書いて送信してください(かならずGoogleアカウントのメールアドレス(@gmail.com等)でメールを送ってください。本文は空欄で結構です)。こちらがお送りいただいたメールアドレスをPACOのサーバーに登録すると、PACOのサーバーに登録してある経験サンプリングのサンプルをご覧いただけます。

 

#なお、PACOを用いたとしても自己報告式のデータがメインになると思います。自己報告式以外のデータの収集 (mobile sensing) については、以下の記事を参照してください。私もあれ以来なかなか苦戦しています。

http://genito.net/?p=1150(SPSP2015で情報収集した役立つツールその他)

 

 

 

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